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 2001年7月13日 その1



 夢の碑シリーズ『渕となりぬ』(ふちとなりぬ)が、先ごろこちらの掲示板で話題になりました。 まだ、描き終わって5年ほどの作品なので、先生の線も当時とはそれほど変わっていないかと思いましてお願いなのですが、羽角(はすみ)と白楊太夫(はくようだゆう)の連れ舞の場面など描いていただけないでしょうか?

二人仲良く舞台衣装で。美しい…
乙輪(左)と羽角
 無理ですねえ、もう、当時とはだいぶ線が変わりましたから。(笑)

 『渕となりぬ』では、「天才的な才能があるのに普通の男」を描きたかったんですね。
 羽角(はすみ)は自分が天才であることに気付かない。だから乙輪(おとわ)がこの上なく迷惑した…というわけです。


 拙サイトの書籍資料では、『渕となりぬ』(1994年〜1997年) を次のようにご紹介しています。

 「恋が積もると渕になり、渕には嫉妬の化身の蛇(じゃ)が棲んでいて…。
 誰もが渕に落ちている。恋の渕、芸の渕、野望の渕。
 応仁の乱が一応の決着を見てから20年弱、歴史の上では、もう戦国時代と呼ばれる15世紀末。
 丹波猿楽の弱小一座・三枝座の生活は貧しく、身分は最低。その中から伝統の舞の承継に留まらず、新たな演目の創作で一座の生き残りをかけてゆく太夫の次男・羽角(はすみ)と、それを支える仲間たち。誰もが渕をのぞきながら。
 作者不詳として伝わる“道成寺” (どおじょおじ)の成立にまでDOZIさまのペンが及びます。」
美(はる)さんとよばれる浮かれ公家
白楊太夫

 能が一番わやくちゃになった時代を描いてみたのですが、普通の人、つまり歴史に名を残さない人の物語にしないと、 「これだけ才能ある人々の名前が後世に残っていないのは何故?」、ということになってしまう。 すなわち、道成寺(どおじょおじ)が“作者不詳”でなくなってしまいます。
 それゆえ、羽角も乙輪も白楊太夫(はくようだゆう)も天才ながら無名のままという結末にせざるを得ない…。 作者側にはそんな事情もありました。

 さらに内幕的なお話になりますが、この作品は体調不良に悩まされて最後のほうをはしょってしまいました。 本当は、もう、ひと騒ぎしたかったのですけれど。


 どのような種類の“ひと騒ぎ”でしょう?

 感情的な行き違いをもう少し突っ込みたかったのですが。

 ううう、そんな…。今でさえ読み手としては充分辛いのに、これ以上、行き違ったら…。

 うふふ。もう少し白楊太夫が動くはずだったんですよ。 「白楊太夫、結局、あなたが本当に好きなのは誰?」、みたいなエピソードを考えていました。

この時代、どちらもたしなむのが普通
先生がお気に入りの武将・大内慰世(おおうち やすよ)は異色の豪傑
 それと、私の大好きな大好きな慰世(やすよ)ちゃんが室町幕府にけんかを吹っかけたりするエピソードも描きたかったのですが、とにかく体力的に限界でした。
 その意味では悔いの残る作品です。


 夢の碑シリーズでとりわけ思い入れのある作品はどれですか?

 どれも好きですが、南朝をテーマにした『雪紅皇子』(ゆきくれないのみこ)が一番、好きです。

 これは、もともとは三巻くらいのお話にしようかと考えましたが、思い入れをうんと凝縮することにして、あの長さにまとめました。幾つかの番外編も含めて、大好きな作品群です。
 それだけに連載中、連載終了時に感想レターが一通もこなかったのは、さすがにこたえました。
 もっとも、後に、夢の碑シリーズの最終巻の後書きにこのことを書いたら、「インパクトがありすぎて、すぐには感想を綴れなかった」というお手紙をたくさん頂きましたが。


 私も、「そんな事情だったらファンレターを出せばよかった」というメールをいただいたことがあります。 次回のインタビューの時には、『雪紅皇子』について、じっくりとお話を聞かせてください。
  • 『渕となりぬ』はプチフラワー(PF)コミックス『夢の碑』16巻〜20巻に収録されています。
  • 『雪紅皇子』はプチフラワー(PF)コミックス『夢の碑』14巻〜15巻に収録されています。
  • その他に、小学館文庫の『渕となりぬ』全3巻、『雪紅皇子』全1巻があります。

 突然ですが、青池保子先生『イブの息子たち』の個性的な主人公たち、バージル、ヒース、ジャスティンのうちでは誰がごひいきでしょう?

 そうですね、あの3人はみんな好きです。
 青池さんの作品にはどれにもユーモアの感覚、それも日本のものではなくイギリスの小説に漂うユーモアのセンスが流れていて、それがとても好きです。 そして、悠々とした線!


 以前、先生は青池先生の線を“ゲルマンの線”と形容なさいましたね。

 そう、私のしょうもない“ラテンの線”とは全く違います。 あと、わが道を行くの作家としての姿勢も好きです。
 若い頃は、青池さんだけでなく作家同士が身軽に遊びに行ったり来たりして、落書きみたいにあれこれ描きちらしていましたが、今はすっかり腰が重くなって行き来が少なくなってしまって。
 青池さんが私の家に遊びにきた時には、『エル・アルコン』の主役・ティリアン・パーシモン「腕を伸ばして、脱いだタイツをぶら下げている図」を描いてもらったんですよ。
 あれは私のお宝です。 原稿用紙にペンで描いてもらったのだけれど、ちゃんと大切にしまってあります。

 『イブの息子たち』の個性的な主人公たち、バージル、ヒース、ジャスティンをご存知ない方は、青池先生の公式サイト をご覧下さいませ。  作品紹介のコーナーで、この3人が皆様をお待ちしています。


 今年(2001年)の夏はどのようにお過ごしの予定ですか?

 高原の避暑地で静養します。多分、向こうではドライブを楽しむことになると思います。

 車は何に乗っていらっしゃるのですか?

 アウディです。色は銀色。
 「ドイツ車は事故に遭っても居住部分は壊れにくいから」という理由で、亡き父が強く勧めたので買い換えました。 銀色はほこりが目立たないし。(笑)
 それで、それまで乗っていたコロナ君はお知り合いのところに引き取ってもらいました。
四十七文字2

 あ、『恐怖の踏み切り』(白泉社『四十七文字2』に収録)に出てくる“はっぱ(初心者マーク)のくせに新車のコロナ”ですか?

 そうです。
 教習所では2000ccだったので、それがいきなり小さい車になると事故を起こした時に中の人間が危ないという理由から、やはり父に1800ccくらいの車を勧められました。 それで、私が「何でも良い」と言ったら、いつの間にかコロナの購入手続きが終わっていたという…。


 『恐怖の踏み切り』は、もしかして、アシスタントさんなしで先生がお一人で描いた作品ではありませんか?

 そうです。

 枠線まで?

 そう、私はよくやりますよ。
 しかも、あれは旅行から帰った翌日に三〜四時間で仕上げたのよね。 というわけで、あの作品はどんな汚い線の一本も、全部、私が描いたものです。


 やはり! DOZIテイスト炸裂で、私、すっごーく好きな作品です。


2001年7月13日電話にて
引用転載厳禁
(2001.7.17 up)

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2001年7月13日 その2

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