夢の碑 PFコミックス 全20巻 (小学館)

いま 急速に魂(たましい)すがれゆく この国の懐かしい美しい
古事(ふるごと)のかけらを拾い集めて碑に記そう

★ ちょっと一言 ★

「ゆめのいしぶみ」と読みます。
1984年年5月号から1997年5月号のプチフラワーに連載していた12年に及ぶ大作で、シリーズ中『風恋記』は第30回小学館漫画賞を受賞しています。
人間と、鬼と呼ばれるような異形(いぎょう)・人外のもの、そして、人間と異形の狭間に生まれあわせてしまった者たちが、留まることの出来ない時間の流れの中で刻んでゆくドラマの数々です。

DOZIさまが、あとがきで、
「幻想ロマンの形態をとっていますが、ただでさえ一般には敬遠されがちな本格時代物が土台」
とおっしゃっています。
それだけ腹をくくって描いていらした作品だけに、全て半端じゃありません。 私個人の歴史好きを差し引いても、掛け値なしに大変楽しめる作品だと思います。

では、前置きはこれくらいにして、先ずは、世にはかくも美しい鬼たちのいることをご覧にいれましょう。




  1. 桜の森の桜の闇
    とりかえばや異聞 その1〜3
  1. とりかえばや異聞 その4〜5
    青頭巾 前編・後編
    封印雅歌

初版1984.12.20
(画像は重版)

初版1985.4.20
(画像は重版)

桜の森の桜の闇 (1984年)
鎌倉時代末の戦乱の世、爛漫の桜の中に夜の髪、雪の肌を持つ鬼。
シリーズ冒頭を飾る華やかで凄絶な物語。『青頭巾』や『鵺』の伏線になっています。

とりかえばや異聞 (1984年)
戦国時代、毛利氏と織田氏の狭間にある佐伯氏で、 お家の存亡を賭けての“とりかえばや”物語。 鬼も出自がいろいろありまして、ここでは“北の海賊”の末裔だったりします。

青頭巾 (1985年) あおずきん
平 清盛が栄華を極め、やがて没した頃の京の都。時の支配者が変わっても桜のみごとさは 変わらない。人間の権勢欲や愛憎も変わらない。

封印雅歌 ふういんがか (1982年『虹の森の鬼』に掲載)
百年戦争が終わった頃、まだ、ブルゴーニュ地方がフランス領となっていなかった時代。
いつの時代、どこの国にも封印された心があります。

  1. ベルンシュタイン
    煌のロンド
    きらのロンド

初版1985.9.20
(画像は重版)
ベルンシュタイン (1985年)
ベルンシュタインとは琥珀のこと。
18世紀、オーストリアの脅威とオスマン・トルコの進出。 どちらに組みしても、中部ヨーロッパの小国が 独立を保つのは難しい時代。 ベルンシュタイン公国の琥珀色の目の姫君は剣の稽古に 明け暮れる。

煌のロンド きらのろんど (1983年 ぶ〜けセレクション第1号に掲載)
大学教授にして、売れっ子作家のアングレアヌ・サフォランを主人公に するシリーズの第5作目。
『もう森へなんか行かない』から始るこのシリーズも、ちゃんとまとめて 再版して欲しい。
01.05.20追記
このシリーズは01年5月に、秋田文庫 『ダイヤモンド ゴジラーン』に全話収録のうえ再版されました。



  1. 水面の月の皇子
    読み人知らず
    風恋記
    その1〜3
  1. 風恋記 その4〜8

初版1986.2.20
(画像は重版)

初版1986.8.20
(画像は重版)

6. 風恋記その9〜13 7. 風恋記その14〜18 8. 風恋記その19〜23(最終話)

初版1987.1.20
(画像は重版)

初版1987.8.20
(画像は重版)

初版1988.1.20
(画像は重版)

水面の月の皇子 (1985年)
『夢幻花伝』のインサイドストーリー。 足利軍に追われる南朝の皇子・紗王が、逃避行中にであった異形のものたち。

読み人知らず (1985年)
ちょっと軽いロマコメ風味で、異形の愛。平安時代ならでは、 荻の少将と帥宮(そちのみや)がゲスト出演。 もちろん和泉式部も顔を見せています。

風恋記 (1985年〜87年) ふうれんき
第30回小学館漫画賞受賞作品
1204年、京に後鳥羽院、鎌倉に源 実朝、北条氏、和田氏、三浦氏と役者のそろった時代。 そして、武蔵国秋葉庄には秋葉 融明(とおるあき)9歳、露近(つゆちか)12歳。
1219年、実朝が公暁に暗殺されるまでの鎌倉幕府の内実と、京の御所との壮絶な確執。
余談ながら、あまり歴史の表面には出てこないけれど、実は三浦氏一族は北条氏と 同じくらい鎌倉幕府の成立に貢献した実績を誇る一族でした。



9. 鵺その1〜5、夢占舟 10. 鵺その6〜9

初版1989.3.20
(画像は重版)

初版1989.12.20
(画像は重版)

11. 鵺その10〜13 12. 鵺その14〜17(最終話)

初版1990.6.20
(画像は重版)

初版1991.1.20
(画像は重版)
ぬえ (1988年〜91年)
♪〜 きみと寝ようか 五千石取ろうか…、流れる小唄も粋な花のお江戸、時は幕末。
仇持ちの駆け落ち夫婦、閉門蟄居のお旗本の若様、お江戸に付きもの義賊のお兄ぃさんと 役者がそろえば、浮世床に美人局、幕僚の饗応、お家の乗っ取り、大捕物と江戸情緒たっぷり の舞台が整います。
やがて繰り返される「鵺だから」という言葉の意味がわかってくると、ミステリーさながらに 事態の全容が浮かびあがって…。
小さな脇役まで、それぞれの人生がしっかり描かれているので物語全体がとても厚く 立体的です。

夢占舟
ゆめうらぶね (1986年 画集 夢占舟に掲載)
戦国武将の独白形式の小品。


  1. 影に愛された男 (前編・後編)
    昼の月 夜の谺

初版1992.11.20
影に愛された男 (1992年)
ところ変わって、プラハ。当時、19世紀の半ばにはプラーグと呼ばれていました。 プラーグ大学を舞台にした怪奇譚ふうの物語。
「久しぶりに耽美的な話にしよう!と思ったのに、ならなかった」とはDOZIさまの弁。

昼の月 夜の谺 ひるのつき よるのこだま
(1991年 ミステリールージュに掲載)
「初めてレディースに描いた作品も、あまりイロっぽくならなかった」と、同じくこれも DOZIさまの弁。
設定などは、いかにもレディースなんですけど。


14. 雪紅皇子 その1〜5 (最終話)
  1. 水琴窟
    上ゲ哥 前編・後編
    君を待つ九十九夜

初版1993.7.20

初版1994.5.20

雪紅皇子 ゆきくれないのみこ (1992年〜1993年)
南北朝時代というより既に室町時代、あと10年余りで応仁の乱が起ころうかという頃。
それでも、南朝方の人たちは吉野山奥の集落で帝を戴き、南朝再興に人生を賭け、 子孫に悲願を托している。その要の重責を、物静かにひとり背負う一の宮。 数少ない手兵をまとめ率いる山岳戦の天才、弟宮・映宮(はゆるのみや)。 異形の愛が、ほのぼのとした彩りを添えています。

水琴窟 すいきんくつ (1993年)
雪紅皇子のインサイドストーリー。 映宮のお守役・降矢(ふるや)と、真葛(まくず)はともに南朝の隠れ里で育った幼なじみ。
小道具に使われている水琴窟や砧(きぬた)から、日本古来の音に対する美意識に思いを 馳せてみたり。

上ゲ哥 あげうた (1994年)
同じく雪紅皇子のインサイドストーリー。 幼い映宮が、兄・一の宮のもとに引き取られるまでのいきさつと、雪紅皇子の導入部の伊勢の偽南朝狩りの物語。
映宮の女装は遊女置き屋のおかみが目眩をおこすほど美しくて。

君を待つ九十九夜 (1993年 プチフラワーに掲載)
“時は大正初期、五月の のどかなロオマンスでございます”
モチーフはDOZIさまお気に入りの“深草少将と小野小町の百夜通い”です。



16. 渕となりぬ その1〜4 17. 渕となりぬ その5〜8 18. 渕となりぬ その9〜12

初版1995.1.20

初版1995.12.20

初版1996.7.20

19. 渕となりぬ その13〜16
  1. 渕となりぬ その17〜18(最終話)
    月光城
    幻想遊戯 Light Version

初版1997.5.20

初版1998.3.20
渕となりぬ (1994年〜1997年)
恋が積もると渕になり、渕には嫉妬の化身の蛇(じゃ)が棲んでいて…。
誰もが渕に落ちている。恋の渕、芸の渕、野望の渕。

応仁の乱が一応の決着を見てから20年弱、歴史の上では、もう戦国時代と呼ばれる15世紀末。
丹波猿楽の弱小一座・三枝座の生活は貧しく、身分は最低。その中から伝統の舞の承継に留まらず、 新たな演目の創作で一座の生き残りをかけてゆく太夫の次男・羽角(はすみ)と、それを支える 仲間たち。誰もが渕をのぞきながら。
作者不詳として伝わる“道成寺” (どおじょおじ)の成立にまでDOZIさまのペンが及びます。

月光城 (1998年1月号 プチフラワーに掲載)
月光城に隠れ住み、戦で行方不明になった夫を85年も待ち続けたお姫様の物語。

幻想遊戯 Light Version (1991年 画集 幻想遊戯に掲載)
DOZIさまの面目躍如のLight Version!

(1999.6.15up)