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◆◆ コンサートレビュー 15 ◆◆


フランス国立放送フィルハーモニー管弦楽団 演奏会  (2003年1月18日)
Orchestre philharmonique de Radio France, Jan. 18, 2003
ConcertoNet.comに掲載されたコンサートレビューの和訳
《コンチェルト・ネット》
パリ、メゾン・ド・ラジオ・フランス

オーノ、オー、イエス!
シモン・コルレー
コンサートレビュー
メシアン・ホール Salle Olivier Messiaen (パリ) 2003年1月18日

フランツ・シューベルト(マーラー編曲):弦楽四重奏14番「死と乙女」第二楽章
フランツ・シュレーカー:室内交響曲
ワーグナー(ヘンツェ編曲):ヴェーゼンドンクの歌(Ms.:ミヒャエラ・シュスター)
ワーグナー:ジークフリート牧歌

フランス放送フィルハーモニー
大野和士(指揮)

 やはり「感傷的な調べ」というテーマをめぐって、ラジオ・フランスが組織した週末無料コンサートの一環として、フランス国立放送フィルが、大野和士の指揮のもと、オーソドックスなレパートリーと、滅多に演奏されない新奇な曲目とを組み合わせた心憎いプログラムを聞かせてくれた。したがって、この3日間のコンサートをつうじて、―― しばしば悪い意味で使われる ―― 「感傷的」という形容詞をどう考えたらよいのかに関して、必ずしもこれ以上くわしいことが明らかにされなかったとしても、たいした問題ではなかろう。

 マーラーが、シューベルトの弦楽四重奏曲「死と乙女」を編曲したのは、マーラー自身の言葉によれば、それまで、この室内用の曲が大ホール向けに編曲されたことがなかったからだという。このような編曲には、疑問を差しはさむ余地もあるだろうが、それはともかく、一番大事なのは、ベルギー王立劇場(通称;モネ劇場)の音楽監督であるこの日本人指揮者が見事に達成したように、いたずらに情念に訴えることなく、スコアを真の意味で音楽的に再現することだ。

 ニールセンの交響曲第4番「不滅」(1916)と完全に同じ時期、シェーンベルグの「室内交響曲」の9年後に作曲され、これら2つの交響曲同様、あまり「感傷的」とはいえないフランツ・シュレーカーの「室内交響曲」は、23台の楽器のために書かれている。演奏に必要な人員からいっても、曲の運びにつきまとうある種の優雅さからいっても、この曲は、しばしば、リヒャルト・シュトラウスが、モリエールの「町人貴族」のために書いた音楽(1912)を思い起こさせる。ウィーンの香りがうち消しがたく漂っている。シュレーカーは、今世紀初頭にあって、楽器構成の面からも、時間的な面からも異例ともいえる小さな枠組みの中に、交響楽の対するどん欲な野心をかき集めようとしたように思われる。というのも、(25分間)一気に演奏されるにもかかわらず、この曲は伝統的な4楽章を逐次提示するようになっているからだ(そして、このような形式が、おそらくニールセンの作品と唯一共通している点だ)。暗譜で指揮した大野は、的確さと繊細さを見事に両立させ、後期ロマン派的な激しい感情の発露(リヒャルト・シュトラウスを思わせる対位法の陶酔や、コルンゴルト風の絢爛たる音の鳴り)と、しばしばドビュッシーを思わせる洗練されたオーケストレーションとの交錯とをくっきりと浮き出たせて見せた。フランス国立放送フィルは、すでにこの作品を1995年2月にギーレンの指揮で演奏しているが、このきらびやかで豪奢な音楽に再び没入できることに幸福感をおぼえていたのは確かだ。

 全編がワーグナーに捧げられた第2部は、「ヴェーゼンドンクの歌(1857〜1858)で始まった。ワーグナー自身は第5歌と、最後の歌にしかオーケストラ伴奏を書いていないので、一般には指揮者フェリックス・モットルの手になる管弦楽編曲に頼るのが普通だが、今回の演奏はわれわれに1976年にハンス・ウェルナー・ヘンツェが書いた版を発見する機会を与えてくれた。ヘンツェは、フランス放送が主催する音楽フェスティバル「現代の作曲家」2003年が中心に取り上げる作曲家であり、また ―― 木管やホルン族楽器を駆使した(各木管楽器は同族の低音楽器、それぞれ、アルト・フルート、コール・アングレ、バス・クラリネット、コントラ・バスーンで補強されている) ―― より豊かなオーケストレーションは、マティルデ・ヴェーゼンドンクの詩句の、もとより暗うつで、苦渋に満ちた側面としっくり調和しているだけに、素晴らしい選択だということができよう。ドイツ出身のメゾ・ソプラノ、ミヒャエラ・シュスターは、非のうちどころのない解釈を示した。これ見よがしに感情移入するというより、おそらく曲に対して客観的な距離をとる、あるいは曲を内面化するという行き方だ。

 3度目の共演となるオケと、指揮者は、一緒に仕事をするのに喜びを感じているのがはっきりと見て取れた。「ジークフリート牧歌」は、比較的遅いテンポで演奏されたが、大野の繊細で緻密な指揮は、輝かしいとか、情熱的とかいうより、むしろ穏やかで詩的というべき情景を描き出し、再び驚異的な効果をもたらした。

 このコンサートの模様は、フランス=ミュジック(フランス放送のクラシック専門ラジオ曲)で1月30日(木)夜8時(注:欧州時間)から、中継される予定だ。 シモン・コルレー



翻訳 : 大野英士
1956年東京生まれ
湘南高校を経て、東京大学卒、早稲田大学大学院満期退学、パリ第7大学大学院修了。
文学博士(ドクトール・エス・レトル)。専攻はフランス文学。
フランス19世紀末のデカダンス作家ユイスマンスの日本では数少ない専門家として知られる。
現在早稲田大学非常勤講師。
また、翻訳家・ライターとして、文学だけに限らず多方面で翻訳・執筆活動を展開。

指揮者大野和士の実兄。(メールはこちらへ)
(2003.1.29 up)



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