1,モネ劇場音楽監督就任の経緯 / 資料室 目次 / ホームページ



2,オペラ指揮者としての完成へのステップ

 そうすると、20世紀の作品を中心に、大野さんのモネ劇場での活躍には、大きく期待が膨らみます。
 指揮者のアルブレヒト氏が「マエスロト大野にとって大きなステップアップだ」と言っているように、モネ劇場と大野さんとは、相思相愛の理想的な関係ですね。

大野和士  それだけではない。
 私にとっては、モネ劇場を経験することによって、フランス語のオペラのレパートリーが広がり、オペラ指揮者として完成するための条件をようやく満たすことができるのです。
 オペラを指揮するときには、私は、徹底的にテキストを研究します。例えば、この7月にカ−ルスルーエでトリスタンとイゾルデを取り上げる前に、ミュンヘンでトリンボルン氏(二期会のラインの黄金ワルキューレで言語指導に来日)と共に、ひと言、ひと言を徹底的に分析するわけです。
 こうしないと、作品を真に理解できないばかりか、オペラ歌手やオーケストラと対等にやりあうことなど、できません。

 現状では英語、イタリア語、ドイツ語を話すことができ、オペラ指揮者としても、こうした仕事をすることができます。ところが、ペレアスとメリザンド、ホフマン物語、カルメンといったフランス語のオペラの経験がありませんでした。(日本語上演を指揮したことはありましたが)
 フランス語圏にあるモネ劇場は、もちろんフランス・オペラ上演の伝統があり、そこから学ぶことはたくさんあります。

 大野さんは今年40歳。指揮者としては、まだこれから。
 マゼールもイタリア語、ドイツ語、フランス語をマスターするために、各地に何年かずつ住んだ、と言っている。
 しかし大野さんは、すでにムツェンスク郡のマクべス夫人イエヌーファのように、ロシア語やチェコ語のオペラでも実績を積んでこられましたね。


大野和士  本当は、もう少し早くここまで来たかった。マゼールは英語のネイティヴだから1つ得しているのは、ずるい(笑)。
 それはともかく、ロシア語ではボリス・ゴドノフ、さらにハンガリー語の青髭公の城もぜひやってみたいと思っています。

 日本語にも良いオペラはあります。最近では沈黙(松村禎三)の再演が話題を呼びましたし、ひかりごけ(團伊玖磨)も優れていると思います。山田耕筰の黒船も評価の高い作品です。機会があれば、ぜひお願いします。

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3,フランス語とフラマン語

 モネ劇場の印象は。

大野和士  まず絢爛豪華な内装の美しさに目を奪われることでしょう。
 1700年創建時の建物がそのまま残っており、ヨーロッパでも3本指に入る美しさと言われています。 冗談で、この建物より美しい音は出せないのではないかと言っているくらい。 劇場のインターネット・ウェブサイトで見た人も多いのではないでしょうか。

 就任決定の記者会見は劇場内でした。100人くらい集まったでしょうか。
 ベルギーという国は、フランス語を話す人が多いが、フラマン語も多い。 そしてどちらの言葉も尊重されている社会で、たとえば劇場の字幕スーパーも、右側にフランス語、左側にフラマン語が映される。次の幕になったら、今度は左側にフランス語、右側にフラマン語。

 そこで記者会見では私は、前日フォクロー総裁に教わったフラマン語で話し始めました。

 「イック ベン ベレ」= I am very happy.
 「私は、まだフランス語もフラマン語も不得手です。 しかし、最も得意な言語は『音楽』です

 この瞬間、集まったマスコミ関係者から大きな拍手喝采が沸き起こったのです。
 彼らの言葉の微妙な問題を理解している人が、われわれの劇場に来てくれる、と感激したのに違いありません。
 さらに「今度お会いするときは、フランス語とフラマン語の2か国語でお話します」と公約してしまいました。 堀江さん、一緒にフランス語を勉強しましょう!

 えっ、まあ・・・。
 とにかく、ベルギーでは言葉にも配慮が必要なのですね。
 そういえば大野さんはザグレブ(クロアチア)やスロベニアでも活躍されて、民族や言語の微妙に入り乱れているヨーロッパでの体験も豊富。

大野和士  どこの国でも同じだが、ひとつの言葉は、単に辞書に載っている意味だけでは理解しきれません。 文化的、歴史的、社会的な背景を理解していないと、とんでもないことになる。

 「三国人」という言葉が物議をかもしたことも、私はそういった文脈で理解すべきだと思います。
 ところで、総裁のフォクローさんは、どういった方なのですか。

大野和士  オルガニストであり、コンセルヴァトアールの教授。バッハのオルガン曲の全集も録音している方です。 日本にもオルガニストとして来たことがある。私はフォクロー氏とオルガニストとして共演する 予定があります(ヤナーチェクのグラゴル・ミサ)。

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4,北アイルランドの「千人の交響曲」

 さきほどベルファスト(北アイルランド)でのマーラー千人の交響曲が、モネ劇場に評価された、とおっしゃいましたが、2000年2月上旬の北アイルランドの政治情勢はたいへん緊迫していました。
 はじめは、公演にブレア首相が来場するかもしれなかったのに、政治情勢が風雲急を告げ、公演のほんの数日前には、ついに行政府の機能停止が宣言されました。 私たちは、毎日のニュースにハラハラしていました。

大野和士  あの上演は、指揮者としての私にとってもひとつの記念碑的な演奏でした。

 アルスター管弦楽団は、正式団員は63名だが、ロンドンから応援のプレーヤーたちが来て、120名 ほどになりました。合唱はグラスゴーなどからも来てくれました。

 この曲の第2部は、いちど死んだファウストの魂の再生のドラマです。
 音楽の進展につれて高揚していき、上からは天使が降りてくる。人々の魂が、ひとつに合わさっていく・・・。その過程を、オーケストラ、合唱の人たちに言葉で説明しました。 最後は、"zieht uns hin-an!"と言って、人々の魂が天の高みへと引き上げられていく。 千人の交響曲の上演には、こういった空間が必要なのです。

 それは良かった。欲を言えば、日本でそれを実現してほしかった!

(2000.4.22 up)

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