3.シュレーカーの作品 / シュレーカー特集目次 / 資料室 目次  /  ホームページ


4.歌劇「はるかなる響き」  あらすじ

【第1幕】
世の中はつらく厳しい・・・。
 愛なんか、すぐに消し飛んでしまうのさ。
(第1場 グラウマン家の居間)
 若い芸術家フリッツには「はるかなる響き」が聞こえる。
 聖霊の手が「たて琴」の弦を、まるで風のごとくなでたのではないか、と思える、理想の響きを追い求め、偏狭な田舎の生まれ故郷から、外の世界へと飛び出していこうとしている。 恋人のグレーテの必死の懇願にもかかわらず、彼女を連れていこうとも考えない。
 彼は「神の恩寵を得た」と言われるほどの芸術家になりたいのだ。そして有名になってグレーテのところに戻り、「富、名声、愛、つまりぼく自身」を彼女の足許に投げ出す、というのだ。
 彼はグレーテに最後のキスをすると立ち去っていく。
 ひとり残されたグレーテの前に、不思議な老婆が現れ、彼女を不安に陥れる。

 そこへ母親がやってきて、家事をするように言いつける。 そしていつも居酒屋「白鳥」で飲んだくれて賭に浪費する夫のことをこぼす。
 そんな時にグレーテが、家を出て自分で稼ぎたいと言うものだから、母親は逆上する。

 そこへ父親と「白鳥」の飲み仲間達が押しかけてくる。 「白鳥」の亭主、三百代言のヴィゲリウス、売れない役者、そのほかの客や店員たちである。 あろうことか父親が娘をゲームに賭けて負けたので、彼らはふざけてグレーテをかっさらいに来たのであった。
 必死に抵抗するグレーテ。「私には将来を誓った人がいるのよ」というグレーテの叫びに、今度は父親が逆上し、娘につかみかかるが、ほかの人たちに追い出される。
 「白鳥」の野卑な亭主が厚かましくも彼女に迫るが、母親までグレーテをなだめようとする。
 グレーテは隙を見て逃げ出す。

(第2場 森の中)
 グレーテは湖に身を投げようかと思っている。
 しかし、湖の上に月が現われ、湖面が月光に輝く夢幻的な美しさに見とれているうちに、フリッツとの甘い思い出がよみがえり、何よりも若さが、自らの命を断つことを思い留まらせる。
 疲労困ぱいして眠り込んだグレーテ。森の中から老婆が現われ、彼女の耳元でささやく。 グレーテは、愛に満ちた生活を夢見つつ、老婆の後についていく。


【第2幕】
あなたの眼差し、あなたの微笑み、あなたのしぐさ・・・
 そんなものが、私にある人を思い出させるのよ。
  それは愛? 希望? それとも、ただの思い出?
(ヴェニス近くの舞踏会場)
 10年が経った。
 にぎやかな声と音楽が「仮面の館」の外から聞こえてくる。 館の中では、腰軽な娘たちや踊り子たちが、客を取ろうとたむろしている。
 彼女たちの話題は、館のいちばんの歌い手グレーテのことだった。 彼女はいつも崇拝者たちに囲まれていたが、とりわけ伯爵が熱心らしい。 しかし彼女はなぜかもの憂げに歌う。
 伯爵の熱烈な求愛に、彼女はいまだにフリッツへの想いにとらわれていることを告白する。
 グレーテは、求愛者たちに歌比べをさせる。 彼女や仲間達をいちばん喜ばせた歌い手の相手をする、というのだ。
 伯爵が「呪われた王冠」という荘重なバラードを歌うと、騎士が「ソレントの花娘」という冒険詩で対抗する。
 騎士の軽薄な歌が人気を博したので、焦った伯爵がグレーテに決着を迫っているところへゴンドラが到着し、見知らぬ客がやってくるので、居合わせた人々はいっせいに注目する。

 それはフリッツだった。グレーテとフリッツは、ひと目でお互いを見分ける。
 フリッツは、探し求めたものはどこにも得られず絶望していたが、そこへ突然、あの「響き」が聞こえてきて、ここへ導かれてきたのだ、と歌う。
 歌比べの勝利者の腕の中に飛び込むグレーテ。女達は祝福し、男達は絶望する。
 しかしフリッツは、彼女が、もはや昔の面影もない娼婦に過ぎないと知って愕然とする。
 彼女が侮辱されたと見た伯爵が、フリッツに決闘を迫るが、フリッツは「娼婦のために命をかける価値はない」と、さらにグレーテを傷つける言葉を吐いて立ち去る。
 ずっと思い続けてきた唯一の、そして最後の希望を断たれて、グレーテには、もう伯爵しか頼れるものはなかった。 彼女は、狂ったようにチャルダシュを伯爵と踊るのだった。


【第3幕】
見つかりもしないものを探して、探して、
 そして、はるか遠くにあるものを求めて、苦闘してきた・・・
(第1場 劇場のカフェの前庭)
 第1幕に出てきた、三百代言のヴィゲリウスと売れない役者が座っている。 2人とも、グラウマンの娘(グレーテ)にした悪ふざけのことなど、昔を懐かしんでいる。
 役者は、今夜初演される劇で与えられた役が「大根役者」であったことに怒り、出演を断っていた。
 その劇こそフリッツの「たて琴」だった。 幕間に合唱団員がのどを潤しにやってて、今夜の初演は大成功を収めるだろう、と予言する。
 そこへグレーテもやって来る。ヴィゲリウスは彼女だと見分ける。 浮浪者にからまれたグレーテを助けたことで、ヴィゲリウスは彼女と再会する。
 あとからやってきた客たちのおしゃべりから、最終幕の上演が失敗して、作者が不評を被ったことがわかる。 さらにグレーテは、作者(フリッツ)が不治の病に侵されていることも知る。

(第2場 フリッツの書斎)
 フリッツは、病のために苦痛にあえいでいるだけではない。
 いまや彼は、自分の出世欲のためだけにグレーテを捨ててしまったこと、そしてそのために、彼自身の幸せをも破壊してしまったことに、ようやく思い至っている。
 春の訪れとともに聞こえてきた小鳥の美しいさえずりも、彼の心をいやすことができない。
 友人のルドルフが訪ねてきて、最終幕を書き直せば「不朽の名作」になる、と励ます。 しかしフリッツには、もはやそんな力は残されていなかった。
 ヴィゲリウスの計らいでグレーテが駆け付けてくる。 するとフリッツの耳に「はるかなる響き」が、初めて、はっきりとした形を取って聞こえてくる。
 グレーテこそ、彼に「はるかなる響き」をもたらしていたのであった。
 しかし、全てがもう遅かった。「はるかなる響き」が、夕日が最後の輝きを放つように鳴り響くと、 フリッツは「グレーテ・・・、 グレーテ、あの響きが聞こえるかい?」と言って、彼女の腕の中で息を引き取る。
*前出参考文献から編集(文責:堀江信夫)


2000年1月27日、オペラコンチェルタンテシリーズの主な配役

グレーテ:岩井理花
フリッツ:吉田浩之
ヴィゲリウス:大久保光哉 *語り部的な存在
売れない役者:泉良平 *コミカルな味のある役
老婆:寺谷千枝子 *シェイクスピア劇に出てくる「道化」のような存在
グラウマン(グレーテの父):藪西正道 *第1幕にのみ登場
グラウマン夫人(グレーテの母):与田朝子*第1幕にのみ登場。ほとんど「語り」
「白鳥」の亭主:大澤建*第1幕にのみ登場
伯爵:河野克典 *第2幕でグレーテに最も親しい人物
男爵:上江法明 *第2幕の「仮面の館」のホスト
騎士:井上幸一 *第2幕に登場するドン・ファン的な遊び人
ルドルフ:山口俊彦 *第3幕のみ。フリッツの実直な友


5.退 廃 音 楽 と は / シュレーカー特集目次

資料室 目次 /  ホームページ